
就職をして最初の給料で、母親に日傘を買いました。
地元の百貨店で自分なりに母親のことを考えながら、選んだのを憶えています。
刺繍の傘で日傘なのに生地に少し穴が開いていて、小さな光が内側から見える。そんな傘に飯田さんの遊び心を感じて選びました。

それから数年後、私が設計させていただいた、「奥田染工場 布類計画室」の奥田さんや「ハタオリマチフェスティバル」を運営する装いの庭さんの繋がりで、飯田さんと知り合います。そして富士吉田で開催される展覧会の会場構成・インスタレーションをお任せいただくことになりました。(装いの庭さんが主催された展覧会です)
イイダ傘店さんはたくさんの傘を作られていますが、この展覧会のテーマとなる傘はたったの一本。その一本となる朱子縞(しゅすじま)の傘は、以前制作していて、廃盤となったもの。しかし、飯田さんにとって、とても思い入れがあること。そして富士吉田で染めから糸を紡ぐところまでされているとのことで、この展覧会に合わせて限定復刻されることとなりました。

本展覧会のテーマは『糸から』。
普段気にはしていないけれど、傘も元をたどれば一本一本の糸から生地ができています。
その制作の課程がとても美しく、そのひとつひとつの行程にかけがえのない価値があると考え、そこに焦点をあてた展示をすることになりました。

驚くべきことですが、この傘の生地を作るために、実に12560本もの糸を正確に紡いでいきます。生地になってからは見ることのできない一本一本の糸の美しさ。そのことを感じられるように、あえて生地を作っている途中の状態を展示することになりました。
この糸の集まり。近づくと繊細な一本一本の糸が見え、少し離れると面になる。その視点による見え方の違いが、とても面白く感じました。会場を訪れる人がこの糸と生地を様々な角度や距離、高さから見えるように、糸の間を通り抜けるインスタレーションを提案しました。

施工は大工さんにひとりサポートとして入ってもらい、イイダ傘店の方々、主催者の装いの庭スタッフ、そして私で作りあげました。
興味深そうに、そして楽しそうに糸の中を訪れた方が通り抜けていく。それはとても嬉しく、美しい光景でした。


ちなみに復刻された傘は私も購入させていただきました。
ずっと大切にします。


イイダ傘店、飯田さんの手と朱子縞の糸

Date : September , 2023
Location : FUJIHIMURO , Fujiyoshida-City , Yamanashi
Planner : Hiroyasu Fujieda (Yosowoi-no-Niwa)
Photo : Shuhei Tonami(Photo1-5,8,9)